2025/02/23
2/23巻頭言「弔辞―山﨑克明先生を偲ぶ」その③
これらの経験を踏まえ2006年9月には明石書店から「ホームレス自立支援」刊行。著者は山崎先生、稲月正(北九州大学教授・実態調査設計実行の責任者)、森松長生(現抱樸専務理事)、そして私の五人。この本は第5回「日本NPO 学会林雄二郎賞」を受賞した。その後、今日に至るまで山崎先生と私は「福岡県ホームレス自立支援推進協議会」や「北九州市ホームレス自立支援推進協議会」において会長、副会長などの役割を担ってきた。
ただ、一昨年辺りから山崎先生が会議を休まれることが増え心配していた。今年の年賀状には「近々伺いたいと思います」と書いたことを覚えている。こんなに早い別れになるとは思っていなかった。
先に著作の巻頭に山崎先生は次の事を書かれている。「『ホームレス自立支援の北九州方式』の特徴の一つは、NPO・市民・行政による協働システムの形成を目指ざしている点にある。もちろん、そうした協働は、ホームレス問題が顕在化してきた当初から成立していたわけではない。運動体と行政との対立・抗争をへて、お互いが対抗的相補性を持ちつつ到達した一地点である」。「対抗的相補性」。山崎先生の言葉は今も深く私の中に刻まれている。「単に仲良くやっている」ということではない。「然りは然り、否は否」。行政、NPO、市民。立場の違い、枠組みの違い、何よりも価値観の違いは当然ある。違いは違いとしつつもお互いをなくてはならない存在として相い補う。妥協してはいけない。しかし、ただ対立・抗争していても何も生まれない。山崎先生の示してくださったあり方だった。その後、現在の抱樸に至る方向性を示してくださったと思う。
NPOの活動開始25周年の時だったと思う。挨拶に立たれた山崎先生が「ここに神の国を見る思いがする」と語ってくださった。とてもそんな立派な活動ではないが、励ましと共に方向性を示してくださったと思う。山崎先生は、熱心なキリスト者であった。富野バプテスト教会を生涯にわたり支えられた。聖書を知る者はこの「神の国」にイエスのことばを思い浮かべるだろう。「まず神の国と神の義とを求めなさい。そうすれば、これらのものは、すべて添えて与えられるであろう」(マタイによる福音書6章33節)。イエスの言葉である。「神の国」は「神の義」と共に語られている。神の国は単なるお花畑ではない。仲良しだけが心地よく過ごす場所ではないのだ。それは「神の義」に裏付けられていなければならない。神の義、正義、公正など、是々非々の厳しいまなざしがそこにはある。その厳しさに支えられ神の国という愛とやさしさ、赦しに包まれた世界は成立する。
続く