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2021/07/04

7/4巻頭言「あれから三年―松ちゃん、会いたいよ その⑫」

さあ、「チーム松井」の出番である。ともかく週2回、2人ずつのローテーションを組んで面会に通うことにした。国選弁護士と相談し、今後の裁判に向けて打ち合わせする。裁判では、奥田が引受人となり「情状証人」として出廷する。面会時のやり取りはメールで共有。ただ、話す内容などは、面会するそれぞれに任せる。厳しいく叱る人、温かく迎える人、ともかく聴く人。そういうグラデーションがある方が良いからだ。とかく「支援方針」というものを専門家は求めるし、それに即してプランを立てるが、当然そういうことも大事であるのだが、伴走型支援の場合は「質より量」ということで、「つながりの量を増やす」ことに最大限集中することにした。キーパーソンも大事だが「一本道」に絞ると、それがダメになると全部ダメになってしまう。これは「ワンストップサービス」、すなわち「縦割りを止めて支援の窓口を一元化する」ことの弱点でもある。だから7人が自分に合ったやり方でアプローチすることになった。
松井さんが逮捕された頃、世界を揺るがす大事件が発生していた。2008年9月アメリカの投資会社リーマンブラザーズが倒産したのだ。その影響は一企業の倒産に終わらず、全世界を巻き込む「世界金融危機」を誘発した。日本もご多分に漏れずその影響を受けた。一気に経済が傾き始めたのだ。そもそも90年後半以降、非正規雇用が増大していた日本において、最初に影響を受けたのは「派遣社員」や「契約社員」であった。12月には東京日比谷公園にて「日比谷年越し派遣村」が登場した。厚労省の道向かいにある公園に派遣切りや雇止めに遭い仕事と家を失った人々が集まったのだ。軌を一にして北九州においても20代のホームレスが登場した。僕らは、松ちゃんへの支援と共に、この未曾有(ミゾウユと読んだ人がいたなああ)の事態に右往左往していた。
そんな中、NHKから連絡が入る。当時、NHK総合で高視聴率番組であり、今も続いている「プロフェッショナル~仕事の流儀」のスタッフからだった。「ホームレスの支援現場を番組にしたい」とのことだった。その後、東京から担当者が北九州にやってきた。この番組は、僕自身も好きでよく見ていたが、登場する方々は、どなたも世界的なまさにプロフェッショナル、唯一無二の存在ばかり。天才外科医とか、トップアスリートだとか。それは、それは、「すごい人」が登場していた。だから、正直躊躇があった。第一に僕は当時、無給で、プロを有給と取るならば「アマチュア」ということになる。何よりもやっていること自体、その気になれば「誰でもできる」ことで、特別な技術や資格は必要ない。苦節何十年という修行を積んだわけでもない。さらに最もこだわったのは、NPO法人抱樸は、一人の逸材が活躍しているのではなく「集団解決方式」、つまりチームで活動していることだった。一方でホームレスや困窮者の現状が番組で取り上げられることで、とかく「自己責任」と切り捨てられてきたことの理不尽さなどが明らかになることには意味があった。それでのNHKの担当者に「今回はせめてプロフェッショナルズ、つまり、複数形のSをつけるというのでいかがですか」とお願いしたが「おしゃっていることはわかりますが、番組名は変えられません」とのことだった。まあ、そうりゃそうだわ。

つづく

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