2019/11/17
11/17巻頭言「断らない―抱樸(ほうぼく)の挑戦(保険医新聞に寄稿)」
すべては「ひとりの人」との出会いから始まった。出会い、考え、悩み、もがき、いかに共に生きられるかを模索した。人は何のために生きるのか。人は幸せになるために生まれ、幸せになるために悩み、そして生きる。人が人として生きる、この当たり前のことを目指し私たちは歩んできた。だが、残念なことにこの「当たり前」が今日の社会においてはそうでもなく、それを「当たり前」にするために相当の努力が必要になった。
活動は1988年12月に始まり、32年目を迎えようとしている。すでにホームレスから脱した人は3,500人を超えた。自立達成率は九割。約六割が就労自立。NPOは、法律や制度に縛られず「自由」に事業を展開してきた。例えばホームレスの六割が最終学歴「中卒」だった。だから学習支援を開始した。四割が知的障害者。知的障害は幼少期に発見され、福祉との連携が図られる。しかし、それが無いまま大人となり遂にはホームレスになった。家庭に課題があったのだ。だから先の学習支援に加え訪問型の世帯支援を開始した。引き受け人がいないまま刑務所を満期出所し、ホームレスになった人は少なくない。だから更生支援を始めた。障害者にはグループホームと作業所を準備した。家の無い人には、住宅確保の仕組み、支援付の住宅、そして抱樸館という24時間ケア体制が整った施設を開所した。現在27の事業を行っている。もはやホームレス支援団体ではない。抱樸は「その人がその人として生きることを手伝う総合事業所」である。
そのように、すべては「ひとりの人」との出会いから始まった。初めに制度があるのではない。「属性」で人を見ない。例えば「知的障害者の○○さん」とは言わない。これまでは制度に合わせて人が動くことが多かった。しかし、制度は手段に過ぎない。人が中心。これもまた「当たり前」だが、現状においては「困難」となっている。
抱樸(ほうぼく)とは、原木(樸)をそのまま抱くこと。原木が製材所に運ばれて整ったら受け入れるというのではない。「なぜ早く相談しなかったの」と言いたいが、困窮が深まるほど人は孤立し「助けて」と言えなくなる。だから、出かけて行って出会う。そのまま引き受ける。原木を抱くと互いに傷つく。しかし、傷は出会った証拠だ。絆は傷を含む。社会とは健全に人が傷つく仕組みだと考えている。
抱樸が目指すのは「共生」であり、「共生」とは「断らない」ということ。抱樸の次なる挑戦は、社会福祉法人抱樸の設立である。NPOが制度に縛られず「広く」展開したのに対して、社会福祉法人は「深く」活動する。これで制度による専門的な支援が可能となる。NPOの広がりと社福の深まりを重ねることで「断らない」体制を拡充する。ただ、社会福祉法人化においては、法の規定で基本財産(一億円)が条件とされている。現在このための募金を開始している。どうか、お支えいただきたい。詳しくは093-651-6669(抱樸本部)あるいは検索→抱樸 http://www.houboku.net/