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2019/12/01

12/1巻頭言 「失敗する権利―お互い様の地域のために」

人口知能AIが実用化される日が近づいている。野村総研は、『日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に』との報告を2015年に公表した。仕事の半分を機械がするようになり、私たちは失業するそうだ。報告書では、「AIに奪われにくい仕事」も報告されているが、どちらにも「宗教者・牧師」はない。そもそも数の内に入っていないの?
人間にしかできないことは何か。「失敗すること」だと思う。これは、私の最も得意とするところ。人は失敗をする。失敗から学び、失敗するがゆえに他者の助けが必要なことを知る。「目も当てられない失敗」をし、「二度と繰り返さない」と誓いつつも、私たちは「失敗」と共に生きてきた。「もう呑まない」と朝反省し、夜にはすっかり忘れ、翌朝「失敗した」とまた反省する。多少のコントロールは効いても人生から「失敗」を取り除くことはできない。「失敗」は人間である証拠だ。
私の周りには「失敗の達人」が大勢おられる。腹が立つ時もあるが、おおむね「愛おしい」と思える。それは、その人の中に自分を見るからだ。他人事ではない。故に「ダメ」とバッサリやるわけにはいかない。田中(仮名)さんは強度のアルコール依存症。独り暮らしが限界となり抱樸館に入居された。医者は「断酒しかない」と告げ、スタッフは「抗酒剤」(お酒を飲みたくなくなる薬)を毎朝飲ませた。お酒は止まった。が、その頃から田中さんの表情は暗く誰とも話さなくなった。アルコール依存症は解決したように見えたが、果たしてそれが田中さんにとって「しあわせ」なのか。私たちは田中さんの権利を侵害したのだと思う。それは「失敗する権利」。失敗するのが人であるのなら、その人から「失敗」を除くと人でなくなる。熱心な支援員ほど「問題解決」を考える。解決は確かに大事だが、それが過ぎると「問題を起こさせまい」と予防的な措置が始まる。その人の人生に「ガードレール」を敷設して一切「道を踏み外させない」状態を創る。この「ガードレール型の支援」により確かに「失敗」はなくなるが、問題は、その人がそれで「しあわせ」かということ。
抱樸は「セーフティーネット型の支援」を目指す。「セーフティーネット」は、空中ブランコの下に張られた網。これは「落とさないため」ではなく、「落ちても死なないため」のネット。どんなに訓練を積んだサーカスの団員も「落ちる」ことが前提となっているのだ。
田中さんは、その後「金銭管理(当然本人同意の元)」を徹底し、少々飲めるようになった。そして笑顔が戻った。独り暮らしの時、地域からしょっちゅう呼び出しがかかった。「倒れてますよ、迎えに来てください」等々。今も無くはないが年数回かな。ちゃんと「失敗」されているが死ぬほどではない。地域の堪忍袋の緒もギリギリつながっている。「失敗する権利」は、人が人であり続け、それを前提とした「お互い様の地域社会」を作るために無くてはならない「権利」なのだ。私達は罪人だ。赦し合いながら生きる。それが地域共生社会の本質だと思う。

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