2023/09/10
9/10巻頭言「ほうぼく2022年度報告書 ごあいさつ」
昨年もコロナ禍の影響で仕事を失った、収入が減った、会社の寮を出された、あるいは給付金などの手続きをしたいが方法がわからないなど、様々な相談を受けました。抱樸の活動はこの報告書にある通り様々な分野に及んでいます。各部署が相互に連携しつつ事態に対処する。それが抱樸の強みの一つです。そして、これらの活動は、皆さまのお支えによって継続できています。心から感謝申し上げます。
しかし、2023年に入り炊き出しに並ぶ人数が増え続けています。7月末の時点で90名(小倉北区の炊き出し会場)。昨年同時期60名程度でしたので1.5倍の増加となっています。ただ、その半数は野宿者ではなく地域に暮らす方々であり、食事、薬、古着などを求めて並ばれています。物価高騰などの影響で生活が苦しい人々が炊き出しを利用されています。
2023年5月をもってコロナ感染症は五類となり一段落した感があります。町の人出でも回復し、外国人観光客も戻ってきました。三年前には暗かった夜の街に人のにぎわいが戻ってきています。あちこちで新しいマンションの建築なども見かけるようになりました。「コロナ終了」そんな感覚を多くの人が実感しているようです。
一方で炊き出しに並ぶ人は増え続けている。これは社会が二極化している現実を表しています。つまり、コロナが明け次の段階へと移行出来た人と、いまだに苦しい状況から抜け出せない人がおられるということです。コロナが大変だった時、「みんなが闇の中いた」という思いでした。「もう少し頑張ればコロナは終わる。明けない夜はない」とお互い励ましながら耐えていました。そして確かにコロナは一段落したのでした。
多くの人が「闇の終わり」を体験された一方で「私だけはまだ闇の中にいる」と思わざるを得ない状況の人々がおられるわけです。「コロナが終わるまでの辛抱」と自分に言い聞かせ頑張ってきた。世間は「コロナは終わった」と賑わいを取り戻した。だが「自分は取り残されたまま」と思わざるを得ない人は確実おられます。経済的困窮に「取り残されたという孤立感」が加わることは大変危険な状況だと思います。自らの人生をあきらめる人も出てくるかもしれません。「期間限定のはずだった闇」が「無期限の闇」にとって代わる時、「あきらめるしかない」と思わざるを得ない人がいても不思議ではありません。
ある県がコロナ対策の緊急貸付(最大200万円まで貸付)を受けた8,000人に対して訪問調査を行いました。今年の一月から返済が始まっています。調査の結果、すでに19人が自殺されていたことが判明しました。日本の自殺率(人口10万人単位の自殺者数)は17.5人です。上記8,000人中13人を10万人で換算すると自殺率は160人を超えます。貸付金返済だけが自殺要因だとは言えませんが、苦しい状況にある人が増えているのは事実です。 「自分のことをあきらめる」。そんな日が来た時、「あなたのことはあきらめない」と言ってくれる人の存在こそが「いのちをつなぐ」根拠となります。抱樸は様々な問題解決を図りつつ、「あなたをひとりにしない」「あなたをあきらめない」ことを目指します。抱樸は「あなたをあきらめない」。それを言い続ける活動であり続けます。