2024/11/03
11/3巻頭言「闇バイトと悪魔祓い」
「闇バイト」事件が頻発している。SNSで「闇バイト」と検索すると多くの投稿が出て来る。これが「闇バイト」の入り口だ。その後、犯行グループは「アルバイトのための登録が必要」などと言い、個人情報を要求。運転免許証や学生証などを言われるまま渡してしまう。日給10万円、即日払い、交通費支給、軽作業、経験不要などありえない条件が並ぶ。結果、犯罪者となり、犯行グループ(暴力団と言われている)は若者たちを使い捨てにする。
途中で「ヤバい」と気づいても「住所はわかっている。自宅に押しかける」、「家族がどうなるかわからない」、「ネットに犯罪者として画像をばらまく」などと脅迫される。結果、「受け子」や「出し子」などの犯罪行為を繰り返す。強盗殺人に問われた若者もいる。この場合「無期又は死刑」であり30年以上は刑に服することになる。バイトどころではない。
なぜ、若者は闇バイトに手を出すのか。「若者の貧困」が背景あるのは事実だ。2020年の総務省「労働力調査」では15歳~34歳の非正規労働者は約512万人(この年代の約20.4%)、完全失業者約72万人(約2.8%)、無業者が約69万人(約2.7%)となっており、この年齢層の26%が不安定雇用、または無収入である。既婚のパートタイムなどを差し引いても2割がアンダークラス(不安定雇用と 低所得、結果結婚や家族形成が困難。永続的貧困状態にいる層)とされる。とわいえ「お金がないから闇バイトをせざるを得ない」とは言えない。そんな選択をしなくて良い所得や生活の保障は大きな課題だ。
私は、もう一つ要因があると思っている。それは「悪魔」である。永続的な貧困状態から「割の良いバイト」を捜す気持ちはわかる。しかし、事態が進むにつれ、どこかの時点で「これは犯罪だ」だと気付いたと思う。当然「他言すれば殺す」「家族もヤル」などと脅迫されたとは思うが、その時点で相談していれば「懲役30年」は免れていただろう。横浜市青葉区の事件では逮捕された青年は「家族に危害が加えられるかもしれないと考えて断れなかった」と供述している。彼の祖父は「私たち家族に危害が加えられたほうがマシだった」と悔む。背景には「相談出来ない」、あるいは「助けてと言えない(言わせない)」という現実がある。彼らは孤独だったのだと思う。
先日、東八幡教会に文化人類学者の上田紀行さんが来てくださった。上田さんは、若い頃「悪魔祓い」の研究をされていた。著書の「スリランカの悪魔祓い」には現代社会を射抜く視点が多く書かれている。「孤独でない人には悪魔の眼差しはこない。(中略)しかしその温かい人の輪の外に投げだされてしまうと、人は悪魔に眼差されてしまう」(第2章:悪魔に憑かれる)。孤独な人に悪魔が憑く。闇バイトの闇の深さはここにある。では、悪魔に憑かれた人を救うにはどうした良いか。社会保障の拡充だけでは足りない。孤独を癒す。それが必要だ。
悪魔に憑かれる人は今後増えると思う。悪魔祓いは前近代的なオカルト現象ではない。悪魔は近代都市の中に潜み、孤独な人を狙っている。憑りついて一層相談できなくする。経済状況は個々人では動かし難いが、孤独は私の一声で癒すことが出来るかも知れない。みんなで悪魔祓いをし合う、それが社会と言うものだ。悪魔祓いをし合うまち。希望のまちは、そんなまちでありたい。