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2024/11/17

11/17「分断を乗り越えるために―闇バイトの背景」

 先日「闇バイト」について書いた。その際に書き洩らしたことがある。それは「分断」あるいは「世代間抗争」だ。逮捕されたのは20代から40代が多く、被害者は比較的高齢者が多い。ターゲットにされたのは「金持ち」と思われる世帯。指示役からの命令で襲撃先を定めているだけだから犯人の若者たちが自ら調べ主体的に襲撃先を選んでいるわけでは当然ない。
 しかし、これらの事件を俯瞰的に見るといわゆる「就職氷河期」(1975年以降に生まれ1990年以降の就職が大変厳しい時代に生きてきた世代)以降に生まれた世代がそれ以前の世代を襲撃しているように見える。
 労働者派遣法が成立したのは1985年。当初は「対象業務」が特定されており「専門職」の派遣から始まった。しかし、1999年には業種が原則自由化された。これにより長期雇用慣行(終身雇用)を基本としてきた日本企業は実質的に「労働者を使い捨て」できるようになる。現在、就職氷河期世代に限って見ると三人に一人が非正規雇用となっている。
 長期雇用慣行は、働き主に家族分の給料と社会保障を企業が保障する形で発展した。ゆえに労働者の多くが住宅ローンを組み持ち家取得が可能となった。退職金があり年金も「二階建て」(国民年金と厚生年金)、さらに企業年金を加えた「三階建て」になった人もいる。安定した「中間層」が生まれた。しかし、そうした構造が90年以降崩壊していく。
高度経済成長も終身雇用制も住宅ローンもそして安定した年金暮らしも就職氷河期以降の世代には「昔話」に過ぎない。2008年リーマンショックにおいてそんな現実が顕在化した。国は「求職者支援制度」や「生活困窮者自立支援制度」を作り就労支援など「緊急対処」を講じたが「構造的問題」を解消するには至らなかった。90年代からすでに30年以上が経過し、非正規雇用、会計年度任用職員など先が見えない状況で暮らさざるを得ない人々が常態化している。
 2020年の総務省「労働力調査」では15歳~34歳の年齢層の26%が不安定雇用または無収入である。既婚のパートタイムなどを差し引いても二割がアンダークラス(平均年収168万円以下。不安定雇用と低所得、結果、結婚や家族形成が困難。永続的貧困状態にいる層)とされる。
 こういう現実を踏まえると「闇バイト」の「加害・被害関係」が「世代抗争」にも見えてくるのは私だけだろうか。繰り返すが本人たちは指示役から命じられたままに犯行に及んだのだから実行犯が「社会構造」を認識していたわけではないし、ましてや社会に対する「反抗としての犯罪」でもない。しかし犯人「世代」はまさにこの構造の中で生きてきた世代なのだ。
 「闇バイト」の背景に30年以上にもわたる「差別的で分断を助長する社会構造」があるならば、「闇バイト」を取り締まっても「分断と対立」を根に持つ「社会的闇」は形を変えながら再現されていくのではないか。世界中で分断が進んでいる。戦争しかりアメリカしかり。「闇バイト」は日本社会の分断状況を私たちに示しているのかも知れない。「103万円の壁」「手取りを増やす」。結構なことだ。しかし政治家は「目先のこと」ではなく「根本的」「構造的」「俯瞰的」「将来的」な議論をしてもらいたいと思う。

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