2025/04/20
4/20巻頭言「日本福祉大学卒業式祝辞」 その①
(先日、日本福祉大学の卒業式に呼ばれ祝辞を述べた。現在、私はこの大学の客員教授ということになっている)
ご卒業おめでとうございます。ご卒業に際して私からお伝えしたいことは一つです。「人は弱い」ということ。そして「弱いから、人間は素晴らしい」ということです。
今日の世界は「強い人が弱い人を支配する」、そんな傾向が強まっています。弱い立場の人に「お前にはカードがない。俺の言うことを聞け」と要求する。強い人だけが集まり世界の事を決めていく。主権国家は、大小にかかわらず平等であるはずなのに、そんなことがまかり通っています。
「弱肉強食」という言葉があります。「弱い者が強い者のえじきになること」ということです。今のような状況では「結局世の中弱肉強食だから仕方ない」とあきらめてしまう人も増えるかも知れません。3月7日、中国の王毅外相が「全ての国が自国を優先し、自分の力だけを妄信すれば、世界は(弱肉強食の)『ジャングルのおきて』に逆戻りする。真っ先に災難に合うのは弱い国、小さい国だ」と米国の「自国第一主義」を批判しました。超大国の外相の発言に私は吹き出しそうになりましたが、仰っていることはその通りだと思いました。
しかし、そもそも「弱肉強食」は事実ではありません。それが事実ならば、卒業式会場前の太田川の駅前にライオンがうろうろしていても不思議ではありません。ライオンは百獣の王ですから。しかし、現実はどうか。ライオンは「絶滅危惧種Ⅱ類」となっており、現在絶滅の危機にあります。一方でライオンに食べられる側、つまり「弱肉」であった兎は世界中で繁殖しています。これは世界が「弱肉強食」ではないことの証しです。
人類も同様です。約500万年前、アフリカにアウストラロピテクスが誕生しました。その後、様々な種が現れましたが約40万年前にネアンデルタール人が、ほぼ同時期にホモサピエンスが登場しました。ネアンデルタール人は、強靭で、寒さに強く、頭蓋骨はホモサピエンスより大きかったと言います。にも拘わらずネアンデルタール人は滅び、弱かったホモサピエンスが生き残りました。ネアンデルタール人絶滅の理由は彼らが強かったからだと言われています。強かった分、助け合うことが苦手だった。彼らは家族を中心とした小さな集団しか作れなかったと言います。
一方、ホモサピエンスは身体も小さく脆弱だったから大きな集団をつくり、助け合い生き延びました。このホモサピエンスが私たち、今日の人類です。歴史の事実は「弱肉強食」ではなく「弱者共存」です。
つづく